
はじめに
日本の多くの職場で、下記の傾向があると思うのです。
・現場(顧客と接するシーン)に入る前に、与えられる分厚いマニュアルなどを熟読して記載された膨大なルールを完全に頭に叩き込み、記憶から欠落することがあってはならない。
・現場では上記のルールに則り、顧客を待たせることなく瞬時に正確に対応しなければならない。
・上記のように絶対に失敗できないプレッシャーに曝されるにもかからわず、給与が地域別最低賃金に毛が生えた程度しか与えられない。
今回はそんな「業務の難易度と給与の不一致」についての記事です。
具体例
たとえばスポーツの審判。
野球の審判であれば公認野球規則の最新版を熟読し、約2~3時間かけて行われる試合でジャッジが求められるシーンで、公認野球規則に沿って適切なジャッジをしなければなりません。
野球は単純に「投手が投げた球を打者が打って一塁→二塁→三塁→本塁を駆け回る」というだけではない特殊なルールがあります。
守備側がゴロを捕球してグラブから抜けなくなった球をグラブごと一塁手に投げる時に、一塁手は投げられたグラブを手でつかまないと捕球と認められず、グラブを落とさないよう胸と腕で抱きかかえるように受け止めたら捕球とはみなされず打者はセーフ扱いになる、とかです。
野球の守備側は「球を手でつかんだ状態になっているか」が重要で、身体の一部で球を受け止めただけだと守備を完遂したとみなされず、審判は野手の一挙手一投足を細かくチェックしてジャッジをしているのです。
プロ野球の一軍戦の審判ともなれば生活が保障されるだけの年俸が確保できるでしょうけれど、草野球や少年野球の審判だと低賃金だったりボランティアでやってたりすると思います。
プロスポーツの審判でも野球以外のマイナーなスポーツだと、生活が保障されるだけの年俸を確保するのは難しいことでしょう。
求められる業務の難易度と責任に対する対価としては、安すぎて割に合わないように思えますが、いかがでしょうか?
たとえばコールセンター。
事前に接客マニュアルを熟読し、台本や想定問答を完全に頭に叩き込んだ上で顧客と電話対応します。
電話先の顧客の年齢も性別も性格も、何を質問してくるのかも事前にわからないのに、その質問に対して瞬時に対応しなければなりません。
顧客によっては業務に関係のない世間話をだらだらと話し始めるかもしれませんし、従業員は顧客の機嫌を損ねないよう慎重に対応しなければなりません。
そしてコールセンター対応業務ってアルバイトやパートで求人していることが多く、求人サイトを眺めていると2025年時点の仙台のコールセンター業務だと時給1,200円~1,500円くらいが相場のようです。
求められる業務の難易度と責任に対する対価としては、安すぎて割に合わないように思えますが、いかがでしょうか?
私が思う根本原因
要は、日本の職場の至るところで、責任重大なのに安すぎるよねって話です。
なぜそうなるかというと「この業務だったら難易度はこれくらいだから給与は最低◯◯円以上」といった業務の難易度に応じて給与を設定するシステムが存在せず、さらに根本原因を探れば「業務の難易度を数値化することができない」ためだと思うのです。
では世の中の求人する側の企業はどうやって給与を決めているのかというと、とりあえず法に触れないよう地域別最低賃金を上回る時給で求人募集を開始して、手を挙げる人がいなければだんだん時給を上げていくのです。
そうして手を挙げる人が安定して出てくれば「このくらいの時給だったら人が集まるな」と時給を上げるのを止めるのです。
競合他社は先行して求人した企業をベンチマークして「あちらの企業は時給1,200円くらいで募集してるから、うちも同じくらいで」と判断して、そうして相場として定着していくのです。
要は、社会で給与について一般的に定義されているのは地域別最低賃金だけで、実際の給与額を決めているのは業務内容ではなく、求人募集に手を挙げる人が「これくらいもらえるならやります」と判断しているのであって、給与額の鍵を握ってるのは手を挙げる人なんですね。
職にありつけず金に困った人が「地域別最低賃金に毛が生えた程度の時給でいいから働かせてくれ」って大量に手を挙げたら、あらゆる業界で難易度にかかわらず時給1,000円くらいの求人募集であふれるでしょう。
低賃金にあえぐ図書館業界
業務の難易度に対して給与額が安すぎることで時々ニュースになる業界のひとつに、図書館司書があります。
司書資格および司書補資格は文部科学省が管轄する国家資格であり、利用者のニーズに最適な情報資源を提供するレファレンスサービスは難易度が高い業務であるのにもかかわらず、実際の現場では指定管理者制度によって図書館を管理運営する企業がほぼ5年毎に入札で変わるリスクがある上に、現場で働く職員は企業の契約社員で年度毎に契約する、という生活が保障されない環境にあります。
そして求人サイトで図書館司書の求人を見ていると、概ね時給換算で1,000円~1,200円くらいが相場のようです。
不特定多数の市民が出入りする公共図書館ともなれば「図書には用は無いけど無料で利用できて空調が効いていて快適だから節電のために来ている」という利用者もいるでしょうしトラブルが絶えないと思います。
来館した利用者が突然体調不良で倒れたりして、職員は本来の図書館サービス以外の対応を求められる機会もあるでしょう。
その対価としては安すぎて割に合わないように思えますが、いかがでしょうか?
国家資格を必須とする業務なのに、生活が保障されないのです。
でもこれも結局のところ「業務の難易度を数値化することができない」ためだと思うのです。
それに公共図書館の指定管理者制度の入札ともなれば税金を予算として運営する都合上、入札額が一番安い企業が落札することが多いでしょうから、従業員の給与も入札額に応じて低く抑えられる傾向なのでしょう。
雇う側の「なるべくコストを抑えたい」だけが重視されて業務の難易度が考慮されていない状況に陥っている具体例が図書館業界なのです。
なお指定管理者制度を採用していない図書館もありますが、そういう図書館は地方公務員(市役所や教育委員会の職員)が職員として働いています。
地方公務員なので数年で異動があります。
「図書館が好きなのでずっとここで働きたいし国家資格も取った」と思っても、指定管理者制度であれば数年で契約が切れますし、地方公務員であれば数年で異動です。
図書館法という法律で守られていて生涯学習という大義名分もあるのに中で働く職員は不安定、それが図書館業界なのです。
ここでは図書館司書を一例として挙げましたが、世の中では「資格取得にかかったコストを、資格取得後の給与でペイできない」というのが結構ありますよね。
むしろもとが取れる資格の方が少なくて、たとえば自動車の運転免許くらいで、それも毎日業務で運転するような人しか該当しない気がします。
ペーパードライバーで写真付き身分証明書が必要な場面ではマイナンバーカードで事足りてしまうので。
そりゃみんなYouTuberや小説家になりたがるわ
子どものなりたい職業の上位にYouTuberが挙げられたとニュースになったことがありました。
普段視聴しているYouTubeの動画内で楽しそうに出演して大金持ちになれるかもしれない、となれば子どもは憧れるでしょうし、社会の仕組みをある程度理解した大人もYouTuberになりたがりますよね。
だって分厚いマニュアルなどを熟読して記載された膨大なルールを完全に頭に叩き込む必要が無いのですもの。
だって顧客の機嫌を損ねること無く瞬時に正確に対応しなくていいのですもの。
だって絶対に失敗できないプレッシャーに曝されることがないのですもの。
さらに動画が自分の作品として後世まで遺せるのですもの。
YouTuberが安定した給与で生活が保障されるかというと全くそんなことは無いのですが、「業務の難易度と給与の不一致」をある程度知ってしまうとYouTuberになりたがる気持ちはわかります。
そして今の日本では「小説家になろう」などの小説を投稿・公募するサービスが充実しており「なろう系」という単語も出てきました。
文章を書いて出版・アニメ化・映画化とメディアミックスが実現すれば収益が見込めますし、社会の仕組みをある程度理解した大人もYouTuberになりたがりますよね。
だって分厚いマニュアルなどを熟読して記載された膨大なルールを完全に頭に叩き込む必要が無いのですもの。
だって顧客の機嫌を損ねること無く瞬時に正確に対応しなくていいのですもの。
だって絶対に失敗できないプレッシャーに曝されることがないのですもの。
さらに小説が自分の作品として後世まで遺せるのですもの。
小説家が安定した給与で生活が保障されるかというと全くそんなことは無いのですが、「業務の難易度と給与の不一致」をある程度知ってしまうと小説家になりたがる気持ちはわかります。
最後に
「業務の難易度を数値化することができない」ことは社会における深刻な問題だとは思うのですが、見方を変えれば「楽な業務なのに大変な業務並みに稼げる可能性がある」ことでもあります。
ありとあらゆる業務の求人が地域別最低賃金に毛が生えた程度に抑えられた時に、手を挙げる人はなるべく楽な業務を選ぶようになるでしょう。
またある人はYouTuberや小説家を目指したりもするのでしょう。
社会全体、国家レベルで俯瞰すれば老朽化するインフラを支える人がいなくなって衰退を招くのでしょうけれど、今の世の中の流れを見ていると「そうなるように進んでいる」ように見えるのです。
全身汗や泥まみれになって国土を守る人を称賛して厚遇するシステムが存在せず、賢く金を稼ぐ人が人生が有意義に楽しめるようになっているので、仕方ないですね。
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